-冷気の平原-
『ヘクタ』と呼ばれる狼、『ぺペ』と呼ばれる王冠をかぶったペンギン、そして雪男『イエティ』。強大なモンスターが住むその地域は、上級者の冒険者達御用達の狩場なのだとか。『凍りの道』よりも広く、なにより寒い地域だ。
「いよいよ分かれ道です!あそこに山が見えますよね?あそこを登るんです・・・と、あれ?」
魔女さんが何かを発見したようだ。指差す先に、大きなビンを構えた男が座っていた。
「あれれ、人がいますね?どうします?CH変えましょうか?」
「いや、その必要は無い。」
「?」
それもそのはず。その男は、私の顔見知りの人物。巨大な瓶を掲げ、大金持ちの風貌をもつその男。
間違いなく『初心者王』だ。
「初心者王!貴方なのだろう?」私がそう叫ぶと、返事が返ってくる。
『余を呼び捨てにするなど、何処の無礼者であるか!!』
そう叫んだ彼は、此方を見て表情を変える。私達の存在に気づいたようだ。
「む、おヌシか。おヌシは家臣45号に認定しておる。うむ。苦しゅうない、ちこう寄れ。」
45号・・・彼には友達が多いようだ。46号は鉾娘だろうか?
魔女さんが困り顔で言う。
「プレイヤーさん、お知りあいですか?^^;」
「ああ。」
「この前の弩使いさんと言い、変わったお知りあいが多いですよね。」
『小娘!!聞こえておるぞ!!余を誰と心得る!』
「きゃあ!」
・・・彼は『地獄耳』を持っているようだ。ともかく、私達は彼のもとへ向かった。
「拙者、投げ侍でござる。初心者王殿。」
「ふむ、武士か。武士はよう働いてくれる。うむ。今すぐにでも余の家臣47号にしてやるぞ?」
「い、いえ、結構でござる・・・」
「遠慮は要らぬ。よきに計らえ。うむ。」
投げ侍が懇願のまなざしで此方を見る。
「プ、プレイヤー殿ぉ〜・・・」
「だ、大丈夫だ。こう見えて彼は・・・」
「彼は?」
そうは言ってみたものの・・・失礼だが、今のところフォローできそうなところは見当たらない。困っていると、魔女さんがあることに気づいた。
「あっ!もしかして、初心者王さんって・・・『スーパーノービス』ですか!?」
初心者王が反応した。
「むっ!!小娘。おヌシは生意気だが、事のわかる人物のようであるな?」
「すごいです!初心者のままでここまで強くなれるなんて!^^」
スーパーノービス。職につかず、『初心者』のままで究極を目指す人物のことを指す言葉らしい。『初心者』専用の強力な武具・・・『神器』も存在し、彼の持つ巨大な瓶もその神器の一つなのだとか。
「なんと!言われてみればその装備、初心者専用でござるな!」
「モップは持ってないんですか?」
初心者王が困り顔で言う。
「うむ・・・それがの。神器を得る為に必要な、『消しゴム』が集まらんのでな。こればかりは、金でどうにかなる話ではないのじゃ。」
特殊な消しゴムを集めることにより、神器を得る事ができるのだそうだ。その消しゴムの入手法は、容易い事ではないらしい。
「どの消しゴムが足りないんですか?」
「うむ。『ママシュ』の消しゴムじゃ。自由市場で探しても、そうそう出回っている品ではないものでな。」
すると、魔女さんが何かを思い出したように言った。
「え、ママシュなら・・・わたし、持ってます。」
「なんと!?」
「真でござるか!?魔女殿!?」
なんと彼女は、神器『ママシュの消しゴム』を持っているようだ。しかし、どこで入手したのだろうか?
「ガシャポンで出たんですが、友達が『高く売れるからとっとけw』って。すぐお店に売っちゃおうと思ってたんですが、とって置いてたんです。」
初心者王が思わず食いつく。
「おヌシ!是非、その消しゴムを余に買い取らせてたもれ!いくら欲しい?言ってみせい!」
魔女さんが再び、困り顔で言った。
「えっ・・!?で、でも、今は倉庫に・・・」
「戻るのじゃ!!余も同行する!ほれ、帰還書じゃ!」
「ええーっ!!?」
「初心者王、私達は先へ進みたいのだが・・・」
『無礼者!余を誰と心得る!おヌシらも早く来るのじゃ!』
「む、むちゃくちゃでござる!」
こうなっては仕方ない・・・私達は帰還の書を読み、エルナスへと帰還した。
エルナスへ帰還した私達は、初心者王に手を引かれ、倉庫までやって来た。
「さあ、小娘よ!早ようママシュの消しゴムを余に!」
「あ、焦らないで下さいよ^^;」
魔女さんが倉庫から引き出した『ママシュの消しゴム』。その大きな消しゴムからは、ただならぬ威圧感が見受けられる。
「これはまさしくママシュの消しゴム!・・・小娘。これ位でどうかの?」
初心者王から提示された金額に、魔女さんは目を大きく見開く。
「ひゃあっ!?こ、こんなに・・・!?」
「む?小娘にこの金額はちと多すぎたようであるな。」
そう言って、初心者王は出していた札束を引っ込める。
「え!?あ、いえ、その・・・」
再び、初心者王が札束を取り出す。先ほどよりは多少、少なくなっているようだが・・・
「これ位で十分であろう。取っておくがよい。」
魔女さんががっくりとうなだれて言う。
「なんだか損した気分です・・・」
詳しい金額はわからないが、そこそこの金額だったようだ。しかし・・・目の前で減額されては、確かに損をした気分になるのも伺える。
「うむ。取引完了であるな。ときに小娘よ。家臣48号になる気はないかの?」
投げ侍が何かに気づいた。
「拙者も数に入っているのでござるか〜!?」
「え、いえ、その・・・そ、そんな事より!ジパングで集めた消しゴムを渡しに行ったらどうでしょう?」
「むう。それもそうであるな。おヌシら!ジパングまで戻るのじゃ!」
「ええーっ!?」
エルナスからジパングへ帰るのは、極めて楽だ。しかし・・・逆に、ジパングからエルナスまでの道のりは長い。とてもではないが、これ以上は付き合いきれまい。
「初心者王、私達が付いて行く意味はあるのか?」
「何を言うか。家臣が王である余に付いて来るのは極めて普通であろう?」
「家臣になった覚え無いんですけど・・・;」
このままではらちが明かない。・・・そこに、魔女さんから『内緒話』が届く。
「(プレイヤーさん、ちょっと良いですか・・・?)」
「(何だ?)」
「(ぼそぼそ・・・)」
「(わかった。やってみるとしよう。)」
内緒話をしていると、初心者王が不機嫌そうに言う。
「おヌシら、何をこそこそやっておる?」
「いや、何でもない。それより初心者王、ジパングへ行くのではなかったのか?」
「おお!そうであったな!うむ。ではついて参れ!」
やはり、初心者王は私達を連れて行く気のようだ。これを防ぐには・・・彼の性格をうまく利用するほか無いだろう。先ほどの内緒話は、その作戦会議だったのだ。
「初心者王、これを。」
私は懐から『いちご牛乳』を取り出し、彼に差し出した。
「おお!気が利くではないか。」
「先頭は王である貴方が行くと良い。さあ、早く飲んでジパングへ。」
「プ、プレイヤー殿!?」
初心者王はご満悦な様子で、こう言った。
「うむうむ。おヌシもわかってきたではないか!では、おヌシらも余に続くのじゃぞ!」
・・・そう言って彼は一人、牛乳を飲み干しジパングへと帰っていった。面白いほどに、彼女の・・・魔女さんの作戦が通った。
「・・・初心者王さん、ごめんなさい!」
「少々気の毒だが、な。」
「成る程、そういう作戦でござったか!」
これで私達は再び『ゾンビ狩り』へ向かう事ができる。
再び、魔女さんの案内と共に、『ゾンビ』の住処を目指した。
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